「コーヒーブランドの紹介ページ、いい感じに作って」——そんなふうにざっくり投げて出てきたモックを見て、ため息が出たことはありませんか。タイポグラフィは平坦、配色はどこかで見たような既視感。AIデザインツールでつまずくポイントはだいたいここなんですが、分かれ道になっているのはセンスではなくどのモデルをどう使うかでした。

同じプロンプトなのに結果が別物になる理由と、場面ごとの選び方を2026年7月時点の状況で整理しました。

  • モデルは「知能・速度・コスト」の三角形のうちどれかを諦める構造なので、最上位を選べば正解というわけではありません。
  • デザインの完成度は、モデルのグレードと同じくらいプロンプトの構造化で差がつきます。
  • 欧文タイポやインタラクションは期待以上。ただし和文フォントや複雑なレイアウトは、まだ人の手が必要です。

プロンプトは同じなのに、なぜ仕上がりがブレるのか

初めて出くわすと戸惑います。昨日はいい感じだった出力が、今日は学生の課題みたいになる。プロンプトを疑う前に確認したいのはいま どのモデルで動いているかです。

最近のAIモデルは、ひとつの名前の下に複数のグレードが同居しています。見た目は同じ世代でも、内側では性能と価格の違う兄弟モデルが仕事を分担しているわけです。

ツール側が自動で安いモデルを割り当てると、ユーザーは理由も分からないまま平凡な結果を受け取ります。鍋が悪いのか火が弱いのか、まずそこを見分ける必要があります。

デザイナー視点のデュアルモニター画面。左は平坦でそっけないWebサイトのモック、右は洗練されたインタラクティブなモックが並ぶ

AIモデルは「チーム編成」だと思うと分かりやすい

私はモデルのラインナップを会社の人員に例えて考えています。こう並べると、選択がぐっとシンプルになりました。

一番上にいるのがエース。テキスト・画像・音声・コードをまとめて理解し、難しい依頼もきれいにこなします。その代わり年収——つまりトークン単価が安くありません。

その下のコスパモデルは、たいていの実務を無難にこなすオールラウンダー。軽量モデルは速度が命のリアルタイム処理やモバイル向けを任せる新人、という立ち位置です。

グレード得意なことコスト使いどころ
上位(エース)複雑なモック・完成度高い最終成果物、ポートフォリオ級
コスパ(オールラウンダー)バランスの取れた品質中くらい日常の実務のほぼ全部
軽量(新人)速度・リアルタイム低い下書き、繰り返し作業、モバイル

肝心なのは毎回エースを呼ぶ必要はないということ。下書き10枚を軽量モデルで一気に出して、最後の1枚だけ上位モデルで仕上げる。10枚すべてをエースに回した場合と比べて、前工程のコストがほぼ丸ごと削れます。財布のほうが先に気づきます。

「一番賢いモデル」を無条件に選んではいけない理由

ベンチマークの順位表を見ると、上位モデルほどスコアが高くてつい手が伸びます。でも実務には落とし穴があります。賢いモデルほど遅くて高いんです。

同じ世代の中なら知能スコアの差は体感ではごくわずかなのに、コストだけ数倍に開くことがざらにあります。半日でモックを数十枚回す人にとって、1枚あたり数秒余計にかかって料金が倍のモデルは正解ではありません。AIを「社員」のように使い始めた今、鍵になるのは結局コスパです。

「デザイン力が飛躍した」は本当に体感できるのか

最近この系統のモデルはそろって「デザイン能力が大きく伸びた」と自称します。マーケのコピーだろうと流していたのですが、話題になっている事例を分解してみると、質が違っていました。

代表的なのがキネティックアートをテーマにした美術館の展覧会サイト。「展示をデジタルに拡張した体験」「スクロールに反応して機械的なリズムを表現するインタラクション」「抑制の効いたアートディレクション」といった抽象的な要求を入れたのに、出力はそのニュアンスをかなり読み取ってきます。セクション構成はもちろん、スクロールに合わせて要素が歯車のように動く区間まで乗せてくる。

2〜3年前に初期のAIモック生成ツールを触った人なら、隔世の感があるはずです。あの頃はボタンの整列ひとつ狂うのが当たり前でした。今は「雰囲気」という曖昧な言葉をレイアウトに翻訳する水準まで来ています。

現代美術館の展覧会サイト画面。キネティックアートと機械的な動きをテーマにした抑制的なデザイン、モノクロとメタリックグレーの色調、歯車と振り子のモチーフ

欧文書体はうまいのに、和文はなぜ物足りないのか

モデルのタイポ感覚を試すとき、よく使う方法があります。画像を一切使わず書体ひとつをテーマにWebサイトを丸ごと組ませること。テキストだけでどこまでデザインできるかが、そのまま出ます。

Helveticaを投げてみると面白いです。1957年にスイスで生まれたこの書体の歴史を年表で語り、この書体を採用したブランドをキュレーションし、字間やウェイトを変えて特性を体験させるインタラクションまで自然に添えてくる。欧文グリッド特有のクールで端正な味を、けっこう再現します。

問題は和文です。日本語フォントの選択肢もこの数年でぐっと増えたのに、同じ依頼を日本語で回すと、あの整った感じが一気に落ちます。字幅や画の対比が欧文と違って欧米式のグリッドに乗りにくいせいで(同じことは韓国語のハングルや中国語でも起きます)、ここはまだ人の手が要ります。

だからプロンプトはこの4点で組みます

雑に投げれば雑に返ってきます。コーヒーブランドのサイトを「作って」の一行で頼めば、十中八九は平凡な結果。最低でも次の4つを固定する癖をつけると、仕上がりが一段変わりました。

  • テーマ・トーン:「ミッドセンチュリーモダン、抑制的に」のように雰囲気を形容詞で固定する
  • 構造:必要なセクション数と順番を数字で指定する
  • インタラクション:「スクロールに反応する区間」のように動きを名指しする
  • 制約:「テキストは短く、画像中心」のようにやらないことを指定する

イラスト・ゲーム・インタラクションまで、どこまでできる?

最近のモデルはWebサイトで止まりません。プレゼンを9セクションで組んでと頼めば画像中心の感覚的なデッキを出し、3Dで操作できる簡単なゲームまで作ってきます。もっともゲームはページを開いただけで画面が固まることもあって、安定性はまだ運任せです。

一番実用的だと感じたのは数学・物理の概念をインタラクティブに可視化する使い方。スピログラフが描かれる原理や、波が干渉して模様を作る実験を、手で操作できるワークシートに仕上げてくれます。

以前はこういうものを1つ作るのに、三角関数の数式を自分でコードへ移植する必要がありました。今は「作って」の一言で、公式が反映されたインタラクションが飛び出してきます。教育コンテンツやブランドサイトのビジュアルを扱う人には、ここが本当の飛躍です。

インタラクティブなスピログラフの可視化画面。幾重にも重なる曲線が幾何学的なマンダラ模様を描き、ネオン調のラインアートが暗い背景の上で光る様子

で、いま何を選べばいいのか

基準はひとつだけ。いまの作業が「数を出す段階」なのか「仕上げる段階」なのかを、まず分けてみてください。下書きは軽量・コスパモデルで速く、最終だけ上位モデルで。ベンチマーク1位を探し回るより、この線引きのほうがずっと実用的でした。

今日すぐ試せることを1つ挙げるなら、お気に入りの書体ひとつをテーマにWebサイトを組ませてみてください。出てきたタイポグラフィと余白を見れば、いま繋がっているモデルがエースなのか新人なのか、5分で分かります。

ツールが良くなるほど、人の役割は減るどころか、むしろ輪郭がはっきりします。何を頼むべきか分かっている人だけが、このスピードを丸ごと自分のものにできるからです。